わたしたちの生活を支えるために日夜はたらいているコンピュータについてお話しする「はたらくコンピュータ」シリーズ。今回は「宇宙ではたらくコンピュータ」です。
「宇宙」といえば何を思い浮かべますか?「お月さま」、「星座」、「銀河系」などいろいろ思い浮かびますね。この数十年間で、わたしたち人間は様々な人工衛星や調査船を打ち上げることで、宇宙も活動の場に変えていきました。今もたくさんの人工衛星が地球や宇宙を見つめています。そんな人工衛星たちのおかげで、わたしたちは「宇宙を知る」ことや「地球生活をよりよくする」ことができているのです。
わたしたちの生活と人工衛星
人工衛星はどのようなことをしてくれているのでしょうか?
例えばわたしたちが毎日頼りにしている天気予報。今は気象衛星「ひまわり8号」がいつも日本上空にいて、日本の周りの気象の様子を教えてくれています。
自動車のカーナビや携帯電話の地図アプリで自分の位置を確かめるとき、「GPS(グローバル・ポジショニング・システム;全地球測位システム)」を構成する人工衛星たちがわたしたちのためにはたらいてくれています。
また、川の氾濫などの災害時にも人工衛星がたすけてくれます。平成27年に鬼怒川が氾濫したとき、陸域観測衛星「だいち」が集めた情報で災害状況や地形の変化をいちはやく知ることができて、災害救助に貢献しました。
これらはみんな、人工衛星が「地球生活をよりよくする」ためにしているお仕事の例なのです。
また、「宇宙を知る」ことにも人工衛星が貢献しています。例えば平成28年2月に打ち上げられたばかりのX線天文衛星「ひとみ」。地球からは観測しにくい宇宙の姿を教えてくれる人工衛星で、わたしたちの目の代わりになってくれています。ほかにもハッブル宇宙望遠鏡など、様々な人工衛星のおかげでわたしたちはこの宇宙をもっとよく知ることができているのです。
参考情報:
- 気象衛星「ひまわり8号」については気象庁「気象衛星センター」のサイト
- GPSについてはウィキペディア記事「GPS衛星」
- 陸域観測衛星「だいち」についてはJAXAの「だいち写真ギャラリー」
- X線天文衛星「ひとみ」についてはファン!ファン!JAXA!のひとみサイト
人工衛星の中のコンプくん
さて「はたらくコンピュータ」では、コンピュータのコンプくんに登場してもらって、コンピュータのはたらきを説明しています。今回も人工衛星の中のコンプくんに出てきてもらいましょう。
コンプくんはコンピュータ、つまり情報を動かしたり情報によって動きを変えたりすることができる「情報機械」です。情報機械のコンプくんの5つの特技は:
- 見る・聞く・感じる
- 書きとめる
- ためる&取り出す
- 伝える
- 分担する
ですね。今回もこれらの5つの特技をどのようにお仕事に活かしているのか見てみましょう。
まず「見る・聞く・感じる」。センサーなどで外部環境の情報を受け取ります。気象衛星「ひまわり」でしたら日本周辺の雲画像を撮影します(①)し、陸域観測衛星「だいち」でしたら特定の地域の細かな地形を撮影します。
また、地球から離れて宇宙ではたらいている人工衛星は、自分が動作するためのエネルギーを太陽光発電でまかなっています。また、宇宙では太陽の光が当たるところはとても熱く、当たらないところはとても冷たくなるという過酷な環境。ですので、自分がちゃんとおしごとを続けていけるために、人工衛星のコンプくんは太陽の光や熱の状態をセンサーなどで感じています(②)。
つぎに「伝える」。人工衛星のお仕事は、宇宙でしか集められない情報を集めて地上のわたしたちの役に立てること。なので、集めた情報は地上に向かって送信しています(③)。また、GPS衛星のように、集めた情報ではなくて、まるで灯台のように自分の位置を知らせること自体がお仕事の衛星もありますが、それも「伝える」の一種ですね。
宇宙という遠く離れたところで何年にもわたってはたらいている人工衛星。すべてのお仕事を前もって教え込んでおく(プログラミングしておく)ことはできません。予期しない状況でも人工衛星がうまくはたらけるように、地上から指示(プログラム)を送ることができます(④)。これはコンプくんの「分担する」という特技のおかげで、地上の人がしごとのやり方を考えて、それを人工衛星が実行するという役割分担でおしごとができるということですね。
「書きとめる」「ためる&取り出す」という特技も、地上から遠く離れておしごとしておる人工衛星にはとても大事。「自分のことは自分でする」ですからね。ですので、せっかく集めた観測データや、自分の状態、地上からもらった指示(プログラム)、あとで自分がやるべき作業(実行すべきプログラム)などは全て、無くしたりしないように書きとめて、ためて、後で取り出して使っています(⑤)。
このように、人工衛星の中のコンプくんも、前回お話ししたスマートフォンの中のコンプくんと全く同じ特技を使って、わたしたちのためにはたらいてくれているのです。
人工衛星のプログラ美ちゃん
ところで、人工衛星の中のコンプくんは一人でおしごとをしているわけではありません。コンプくんにその都度おしごとのやりかたを教えてくれるプログラ美ちゃんが、やっぱりいるのです。
コンプくんの心のなか(メモリの中)にはいつもプログラ美ちゃんがいて、何をすべきか教えてくれるのです。
人工衛星のプログラ美ちゃんのお仕事のうち、特に大事なものは「飛行管理」という一連のお仕事ですので、少しだけ書いてみました。
「コマンドテレメトリ」は地上からの指示を受けてそのとおりにコンプくんに働いてもらう処理。
「飛行モード管理」は宇宙におけるお仕事をきちんとこなしていく処理。
「異常検知分離再構成」は人工衛星が大丈夫であることをいつも監視して、もしなにか異常があれば対処するための処理。
そして「システム制御」は人工衛星が正しい姿勢でいつも飛行しているように保つ処理です。
コンピュータサイエンスと人工衛星
この記事では、人工衛星のコンプくん(ハードウェア)とプログラ美ちゃん(ソフトウェア)が何をしているのかを解説しました。人工衛星は機械のかたまり。その材料や機構についての研究成果はニュースになることもありますが、中に入っているコンピュータの働きについて注目されることは少ないのではないでしょうか。
「地球生活をよりよくする」・「宇宙を知る」ためにはたらいている人工衛星は、最先端のコンピュータ技術・ソフトウェア技術で動いています。こんな風に、コンピュータサイエンスはわたしたちの身近に寄り添って、よりよい生活を創り出すことに貢献しているのです。
この記事を書くにあたり、特に以下を参考にしました。
- 「宇宙開発への情報技術の貢献:0.編集にあたって」、北村操代、情報処理,56(7),652-653 (2015-06-15)
- 「宇宙開発への情報技術の貢献:1.宇宙システムについて -宇宙システムにかかわる情報処理技術-」、小山浩、情報処理,56(7),654-659 (2015-06-15)
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- 「自動車エンジンにもプログラミング?」、かながわグローバルIT研究所、2016年5月23日
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- 「コンピュータって何だろう」、かながわグローバルIT研究所、2016年2月16日
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