最近、新聞を開くと「人工知能」「AI」「ディープラーニング」といった言葉が無い日がないくらい、人工知能の進歩は大きな注目を浴びています。しかしそれが一体どういうものなのかわかりくいですよね。そこで本稿では、昔話「茶栗柿麩(ふ)」を題材に、ディープラーニングの特長を説明してみようと思います。

まずはふつうの説明

最近の大ニュースはGoogleのDeepMindチームが開発した「アルファ碁」ではないでしょうか。世界のトップ棋士に遂に人工知能が勝利した、ということで大きな注目を浴びました。このアルファ碁で用いられた技術がディープラーニング。深層学習とも呼ばれる技術。簡単に言うと、生物の神経回路網(ニューラルネット)を効果的にシミュレートしてうまく学習させていく仕組みです。

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しかしニューラルネット自体は数十年前からある技術。ずっとあるのに普及しなかったのには理由があります。それは、人間が学習方法を教えてあげなければならなかったということ。もっというと、膨大な学習データの中の「どこに着目して学習すべきか」を人間が指定してやらなければなりませんでした。

これは人工知能研究50年間の最大の課題でした。いろんな人工知能技術はありますが、どれもそこがボトルネック。それさえクリアできれば、いろんなことが実現できるだけの技術と知識が蓄積されてきたのに、学習方法を考えてあげなければならないので社会に普及するところまでいかなかったのです。

ディープラーニング手法の登場で、機械に学習方法を教える必要が亡くなった。教えなくても、コンピュータ自身が大事なところを見つけてそれを学んでいくからです。

「茶・栗・柿・麩(ふ)」と従来型AI

昔話の世界

AIとディープラーニングを昔話でたとえると…?

皆さんは「茶栗柿麩」というお話をご存知でしょうか。わたしは子ども時代にこの話を読んでもらったことがあります。強い印象を持ったようで、それからずっと心に残っているのです。こういうお話しです。

  1. 若い男がいた。茶、栗、柿、麩(ふ)を売りに町へいくがさっぱり売れない。
  2. どのように売っているのか、と聞くと、男はなんと黙って商品を持って歩いているだけだとのこと。
  3. そこで「何を売っているのか、大声で言いながら売り歩け」というアドバイスをもらう。
  4. それでも売れない。男は「チヤックリカキフ~」を売り物を全て繋げて大声で叫んでいた。これでは何を売っているのか道行く人に伝わっていなかった。
  5. そこで「茶は茶でべつべつ、栗は栗でべつべつに売り文句を叫べ」というアドバイスをもらう。
  6. それでも売れない。言われた通り、「茶は茶でべ~つべつ、栗は栗でべ~つべつ」という風に叫んでいたので、何を売っているのか道行く人に伝わっていないかったからだ。

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この若い男は、従来型人工知能です。教えたことは学んで実行できるけれども、学ぶべきポイントを明確に指定してやる必要があります。「大声で言いながら売り歩け」と教えれば商品名を繋げて一語にして言う、「べつべつに言え」と教えれば「茶は茶でべ~つべつ」といった具合です。

「茶はいらんかね~、栗はいらんかね~」といったような売り文句そのものを教えてやれば、この男はそれを忠実に実行したことでしょう。しかし例えば「3回に1回は『おいしい栗だよ~』」とも言え、などと教えないと、単調な売り文句を繰り返すだけかもしれません。

「茶・栗・柿・麩(ふ)」とディープラーニング

ディープラーニング型の男が茶・栗・柿・麩を売り歩こうとするとどうなるでしょうか。

  1. 男は、町で物売りをしているひとたちの行動をじっと観察する。(学習データを与えられる)
  2. どのような行動が購買に結びついているかに着目し、成功した物売り行動と成功しない物売り行動の違いに着目する。
  3. 成功した物売り行動に共通するパターンを自分で見出す。(学習した)
  4. そのパターンに基づいて自分の行動を計画し、実行する。
  5. 物売りに実際に成功したら、そのパターンの評価をさらに上げる。成功しなかったら、そのパターンの評価を下げる。他のパターンも試す。

こんな感じになることでしょう。どうでしょうか。機械的に教えられたことを学習するのではなく、自らの観察に基づいて、「成功へのポイント」が何かを見つけ、それを学びます。

「成功のポイント」は人工知能用語で「特徴量」と言います。

ディープラーニング型の男を指導するのも楽だし、実際にも物売りに成功してくれます。従来型人工知能よりもずっと便利でインパクトも大きいということがお分かりになるでしょう。

このような進んだタイプの人工知能が現れ始めたわたしたちの社会。近い将来の「人工知能社会」では人間はどのように生きるべきか、それについては別の記事で考えていっています(「人工知能時代にあなたはいかに生きるべきか 」)。

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(かながわグローバルIT研究所 森岡剛)