水族館の人気者・イルカ。わたしもイルカショーは大好きです。ジャンプする姿にはいつも圧倒されますが、何よりも好きなのはその好奇心と遊び心。ショーが始まっていなくても、楽しそうに泳ぎ回ってジャンプしまくるイルカたちを見ていると、「遊びをせんとや生まれけん」という日本の古い唄が心に浮かびます。
さて水族館で会えるイルカはみんな海にすむイルカ。しかし淡水にすむイルカもいると最近知りました。今回はインドのガンジス河にすむ淡水イルカである「ガンジスカワイルカ」の生態を探る研究プロジェクトと、そこにあるコンピュータとプログラミングについてみてみましょう。
今回の記事は以下を参考にしました。
参考情報:
- 「Engineers to the Rescue! The Ultrasonic Mission to Save the Ganges River Dolphin」、IEEE Spectrum、2016年4月26日
- 英語記事ですが、写真や図は見る価値ありますよ!動画もあります。一見の価値あり。
- 「絶滅が危惧されるガンジスカワイルカ KDDI研究所が行う保護の取り組み」、TIME&SPACE、2015年1月15日
ガンジスカワイルカ
わたしも初めて聞いたこのイルカ。インドですらあまり知られていないそうです。淡水イルカは3種類が知られていましたがすでにそのうち1種は絶滅してしまった模様。。。悲しいですね。ガンジスカワイルカも絶滅危惧種ですが、彼らを何とか守るためにも、まずは彼らの生態を知ろうという研究プロジェクトが上に挙げた記事の内容です。
なぜ生態か?それは彼らがどのような生活をしているのかすらまだよくわかっていないからです。広い広いガンジス河の濁った水。そこで暮らすガンジスカワイルカは2000頭程度と言われています。地元の人ですらその存在を知らないくらいで、わからないことだらけ。
しかし、わかっていることだけを挙げても、とても不思議なイルカということがわかります。まず、濁った水に適応したためか、目はほとんど見えません。(わたしたちの眼にあるようなレンズがないそうです。)それではどうやって周囲のことを把握するかというと、音です。自ら超音波を発して、跳ね返ってくる音を聞くことで周囲の環境を把握しているのだそう。これはコウモリと似ていますね。
泳ぐ様も独特で、横向きで、頭を振りながら泳ぐそうです。これも、レーダーのようにまんべんなく音波をまきちらすための行動のようです。
音でイルカを「見る」
さて上に挙げた記事で紹介されている研究プロジェクト、日本のKDDI研究所、東京大学生産技術研究所、そしてインド工科大学デリー校、WWFインディアの共同研究だそうです。日本の研究機関がカワイルカを守るために尽力していることが海外記事でも紹介されているのは嬉しいですね。
ガンジスカワイルカを保護したいのはやまやまですが、そもそもどこでどのように生活しているのかわからない。そこでこのプロジェクトでは、イルカが発する音を聞くことでイルカの生息地域や行動を把握するということを目的にしています。6つのマイクを装備した観測機器を沈めておいて、イルカが発する音を聞きます。そして、同じ音をそれぞれのマイクが拾うタイミングのズレから、音の発信源つまりイルカの位置を特定するのです。
わたしたちも、音がどこから来ているのかわかりますね。それは右耳と左耳で、音が聞こえるタイミングの微妙なズレからわかるのです。上記の観測機器と全く同じ原理です。
そしてガンジス河の水中の観測機器で得られた観測データは、ネットワークを経由して日本のサーバー(大きなコンピュータ)に格納するとのこと。こうしておくことで、Webからデータにアクセスすることができ、分析するにも大変便利です。
コンピュータとプログラミング
それではこのカワイルカ観測プロジェクト、どこにコンピュータとプログラミングが使われているでしょうか。
まずは6つのマイクで拾った音から、イルカの位置を特定するところ。音の速さ、距離、角度などを使って、イルカの位置を計算するのはコンピュータ。そしてそのプログラムは誰かが書いたものなのです。
また、観測データをネットワークに送り、それがさらに日本のサーバーに送られる。ここにもたくさんのコンピュータやプログラムが関わっていますね。
そして観測データを地図の上にあてはめたり、グラフ化したりして、イルカの行動をわかりやすく示す処理。数字だらけのデータを見やすくするこのような処理を「可視化」といいます。ビジネスの世界では「見える化」とも呼んでいます。可視化に正解はなくて、「データから何を知りたいか」によって一番いい可視化方法が違います。このように、可視化はコンピュータに関する分野ですが人間の心の働きを良く知ったうえで仕組みを作る必要がある、まさに人間とコンピュータの間にある分野です。
最後にWebからデータにアクセスするというところ、大学の研究室や特別なコンピュータの席にいなくてはならなかった昔とは大きく変わって、とても便利です。これはインターネットとワールドワイドウェブ(WWW)がイルカの保護にも貢献するといういい例ですね。
様々な学問や取り組みを支えるプログラミング
今回は、ガンジスカワイルカを守るための研究者たちの取り組みの中にも、コンピュータやプログラミングが活用されていることを見てきました。イルカの保護や地球環境の保護。そんなところにも、コンピュータとプログラミングが貢献しているのです。
上で上げた英語記事は、本プロジェクトのチームリーダーである東京大学の杉松治美さんの言葉で締めくくられています。ガンジスカワイルカを理解する取り組みは始まったばかりですが、イルカに必要なものがわかった、とのこと。それは「科学、統計、そしてデータ」です。そしてそれらを支えるのは、情報を扱うことができる情報機械であるコンピュータとそれを動かくプログラム。
近い将来、小学校・中学校でプログラミング教育が必修化されます。プログラミングは決して一部の「技術オタク」だけのものではなくて、イルカを守りたい優しい子どもたちにとっても大事なものなのです。
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(かながわグローバルIT研究所 森岡剛)