この記事を加筆修正した最新版がありますので、どうぞそちらを参照ください。
- 「プログラミングそのものを楽しむ男の子、プログラミングで何かを成したい女の子」、かながわグローバルIT研究所、2016年6月27日
大好評記事の続編
2016年6月25日に公開しました「女の子と男の子とプログラミング教育」ですが、Tiwtter、Facebook、はてなブックマーク等の様々ソーシャルメディアで拡散され、多くの読者に読んでいただけていることに感謝しています。
プログラミングというと「ゲームを作ろう」、「ロボットを動かそう」、「機器(デバイス)を動かそう」というネタが多いと思います。子どもたちに関心を持ってもらうための施策として考えられているとは思いますが、それが果たして女の子にも楽しめる活動なのかというとちょっと首をかしげてしまいます。そんなプログラミング教育の状況についていろんな思いのある親御さんも多いと想像し、それが「女の子と男の子とプログラミング教育」への多数のアクセスの背景にあるのではないかと思っています。
プログラミングに性差はある?
「女の子と男の子とプログラミング教育」への反響を見て気づくのは、「プログラミングに性差はそもそもあるのか?」というコメントです。
例えば、「面白いけど、性差を語ることに意味を感じない。個人差で十分なのでは?」というツイート(2016年6月26日)
上記のツイートに見られる「プログラミングに対する態度や学習の進め方に性差はあるのか?」という疑問は、義務教育においてプログラミングを教えることになった現状では重要です。貴重な授業時間を効果的に活用する方法につながるからです。
個人の感覚に基づく議論は危険ですので、ちゃんとしたデータが欲しいところですが、日本国内でこのような疑問に対する調査研究についての情報は確認できていません。しかし海外では大学等研究機関による豊富な成果がありますので、今回はそれを援用しつつ、プログラミングとコンピュータサイエンスにおける性差の有無について考察しようと思います。
プログラミング能力に性差はない
今回の記事で参考にするのは、以下の報告書です。
参考情報:
- 「Girls in IT: The Facts」、The National Center for Women & Information Technology、2012
発行元はThe National Center for Women & Information Technology(NCWIT)で、コンピュータ関連分野における女の子や女性の活躍を促進することを目的にアメリカ国立科学財団(National Science Foundation)が設立した非営利団体。研究手法やデータの確実性はお墨付きです。これらは欧米での研究に基づくものですが、その結論が日本に当てはまらないと考える特段の理由はありません。
まずは同報告書の結論を一部抜粋して紹介しましょう。
「コンピュータ技術関連分野で、男女の能力に性差はない」
同程度の訓練と経験があれば、男女の能力に差はないことがわかっています。つまり、もしプログラミングなどコンピュータ関連分野で男女の構成比が違っていたり、能力に差があったりする場合は、それは性差ではなく環境によるものということです。
「女の子も男の子も、コンピュータ関連の仕事に関して誤ったイメージを持っている」
欧米でも日本でも、以下のような誤ったステレオタイプが流布しているということです。
- 一日中ディスプレイとにらめっこで人と話すことがない(PCとにらめっこしているのは、今やホワイトカラーの特徴であってコンピュータ関連の職種だけではありません)
- 個人プレーであってチームプレーではない(チームで一緒に目的を目指して活動しています)
- 人間関係が苦手な人だけがコンピュータ関連の仕事に就いている(同僚や上司や多くのステークホルダーとやりとりする職種です)
「女の子も男の子も、コンピュータ関連の職種は『男の領域』と誤解している」
いわゆる「理系」への進学において男女の差が大きい日本は、特にこの傾向は顕著ではないでしょうか。
「STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics、つまり理・工・数学)に進む女子においても、コンピュータ関連分野を志向するものは少ない」
つまりSTEM志向とコンピュータ関連志向は別、ということです。なお、STEM志向の女子が志望する領域の上位は、医学とヘルスケア/アートとデザイン/社会科学/エンターテイメント、とのことです。
「同程度の成績の場合、男の子よりも女の子は自己を低く評価する」
これは「女の子と男の子とプログラミング教育」でも少し触れましたが、元ネタはこれです。コンピュータ関連分野は「難易度が高い」と思われがちですので、能力的に足りている女の子であっても敷居が高いということです。背中を押してくれるようなポジティブな体験が重要です。
プログラミングとコンピュータサイエンスの志望の性差
同報告書で一番印象的だったのは、コンピュータサイエンス(日本では「情報工学」や「情報科学」)を専攻している1434名の大学1年生を対象とする、コンピュータサイエンスを専攻した理由です。
この結果は、以下の論文で報告されているものです。
- 「A statewide survey on computing education pathways and influences: factors in broadening participation in computing」、Mark Guzdial, Barbara J. Ericson, Tom McKlin, Shelly Engelman、ICER ’12、2012年
結果はいかのようなものでした。
専攻理由のトップ3は男女に差はなく、「コンピュータが好き」「コンピュータサイエンスは機会の幅を広げる」「金銭面で今後有利に働く分野だから」というもの。
男子学生は「コンピュータゲームが好き」「コンピュータを使って課題を解決するのが好き」「プログラミングが好き」を挙げる傾向が女子学生よりも強い(統計的に有意)。
女子学生は「コンピュータで、人や社会に貢献したい」を挙げる傾向が男子学生よりも強い(統計的に有意)。
いかがでしょうか。冒頭で述べましたように、ロボットを動かしたり、ゲームを作ったり、というのは男の子にはウケるでしょうが、女の子の多くには関心を持ちにくいテーマなのです。
「性差はあるのかないのか?」「性差別になるから性差を議論するのはやめよう」といった議論はもうやめて、女の子が関心を持てるような内容でプログラミング教育をするにはどうしたらいいのかを考えるべきではないでしょうか。
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関連記事:
- 「女の子と男の子とプログラミング教育」、かながわグローバルIT研究所、2016年6月25日
- 「昔話「かっぱのてがみ」で考える 「データ」と「プログラム」とコンピュータサイエンス」、かながわグローバルIT研究所、2016年5月24日
- 「宇宙ではたらくコンピュータ(人工衛星の巻)」、かながわグローバルIT研究所、2016年3月18日
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(かながわグローバルIT研究所 森岡剛)
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