「絵本で楽しむ科学・技術・工学・数学(STEM)」シリーズ、第1弾は「フィボナッチ」として知られる数学者、ピサのレオナルドの伝記絵本です。STEMのうちの「科学(S)」と「数学(M)」のよろこびを伝えてくれる絵本です。

数が大好きな少年レオナルドの物語

今回紹介するのは、12世紀のイタリアのピサで生まれた、数が大好きな少年・ピサのレオナルドの物語です。彼はのちに、インド‐アラビア数字をヨーロッパに広めるための本を書き、その中で有名な「フィボナッチ数列」を用いる計算クイズを掲載しました。フィボナッチというのは、ピサのレオナルドの通称で、いまでは彼はこちらの名でよく知られるようになっています。

わたしたちは普段、2種類の数字を使い分けています。一、二、三、四、五、六、七、八、九、十などの漢数字、そして1,2,3,4,5,6,7,8,9,0という算数字です。後者はインドで発明され、アラビア経由でヨーロッパに広まったので、世界的には「インド-アラビア数字」と呼ばれます。

この本ですが、邦題は「フィボナッチ 自然の中にかくれた数を見つけた人」ですが、原題は「Blockhead」で、なんと「うすのろ」という意味です。

書籍情報:

Amazon.co.jpから配信されている表紙画像です。クリックすると本の紹介ページにとびます。

ジョセフ・ダグニーズ=文
ジョン・オブライエン=絵
渋谷 弘子=訳
さ・え・ら書房のページはこちら:http://www.saela.co.jp/isbn/ISBN978-4-378-04126-1.htm
Amazon.co.jpのページはこちら:フィボナッチ―自然の中にかくれた数を見つけた人

絵本の紹介

ピサのレオナルドは、数が大好きな少年。いろんなものの数を数えたり、数を使ったクイズを自分で考えて解き方を考えたりしています。そんな彼は、周囲から見ると、妙な事ばかり考えてぼーっとしている「うすのろ」なのでした。

数が大好きなあまり「うすのろ」とまで呼ばれるようになった彼のお父さんは激怒。自分の商売の旅に連れて行って、自分のような一人前の商人に育てようとしますが、それはレオナルドにとっては辛いことでした。

でも、旅先で彼が出会ったのは、インド‐アラビア数字。当時のヨーロッパではローマ数字が使われていました。ローマ数字はかっこよく見えるかもしれませんが、これで計算問題を解こうとするとかなりやっかい。簡単な計算さえも難しくなってしまうのです。(例えば、XVIIIにIVを足すとどうなりますか?)

数が大好きなレオナルドはインド‐アラビア数字の便利さ、素晴らしさに気づき、それを広める本を書きます。

その本はインド‐アラビア数字の意味や書き方、そして様々な計算クイズからなる本でした。そしてその中のクイズの一つが有名な、うさぎの増え方のクイズ。このクイズを解くのに使う数列が、今では「フィボナッチ数列」と呼ばれている、単純だけれども自然界の様々な場所で顔を出す不思議な数列なのです。

(絵本には出てこない余談ですが、レオナルドが書いたその本のタイトルは「Liber abaci」。「算盤(そろばん)の書」と訳されることもありますが、むしろ「計算の書」とするほうが適切でしょう。)

フィボナッチの生涯については詳しくは知られていませんので、この物語は多分に創作に基づいており、それがこの絵本を素晴らしいものにしています。特にうまいのが、レオナルド少年のお父さんの友人アルフレードの存在。ひたむきに数を愛するレオナルド少年、そして彼を陰からささえるアルフレードの心のこもった関係は感動的です。

最も印象的なのは、意に反して父の商売の旅に同行しなければならなくなったレオナルド少年にアルフレードがかけた言葉。

「好きなもののある人はとてもしあわせだ。[…]きみはどうかな、レオナルド、きみをいちばんしあわせにしてくれるものはいったいなにかな?」
「数」答えが口をついて出てきました。
「だったら数のことを思い切り勉強してごらん。そうすれば、きみはいつもしあわせだ。」

(ジョセフ・ダグニーズ著、渋谷弘子訳、「フィボナッチ 自然の中にかくれた数を見つけた人」より引用)

自分をいちばんしあわせにしてくれるものをつけ、それを思いっきり勉強する。それはいつも自分とともにあり、自分をいつもしあわせにさせてくれる宝物。

これは、わたしにとってのコンピュータサイエンスをあまりにもうまく言い表していて、心のなかの大事な部分にぐっさりと(いい意味で)突き刺さった言葉です。

今までいろんな、企業研究者や学者、起業家や成功したプロフェッショナルを見てきました。それで思うのは、「好きなことをやっているということは力だ」ということ。好きだからこそ頑張れる、好きだからこそこだわる。

レオナルド少年も、数が好きなあまり人々からは「うすのろ」とバカにされますが、数のことを考え続けることでしあわせな日々を送りました。

レオナルド少年はたまたま「数」が好きでした。でも、好きになるものは何でもいい。「自分をしあわせにしてくれるものをぜひ見つけ、それをとことん勉強することでしあわせな人生を送ることができる。」そんなメッセージに強く共感し、この本をぜひ多くの人におすすめしたいと思っています。

関連情報:

(かながわグローバルIT研究所 森岡剛)