「絵本で楽しむ科学・技術・工学・数学(STEM)」シリーズ、第5弾はアメリカ生まれの海洋学者シルビア・アールの物語を紹介します。STEMのうちの「科学(S)」の要素を持っています。

この絵本に出会うまで、シルビア・アールという人のことは知りませんでした。検索してみると、様々なページがすでにあります。シルビア・アールは1935年生まれの海洋学者で、なんと7000時間以上を海の中で過ごしたというほど海を愛する人。この絵本は、彼女の人生を、鮮やかな色彩とやさしいタッチの絵で紹介します。

書籍情報:

Amazon.co.jpから配信されている表紙画像です。クリックすると本の紹介ページにとびます。

クレア A. ニヴォラ=作
おびか ゆうこ=訳

出版社(福音館書店)のページはこちら:http://www.fukuinkan.co.jp/bookdetail.php?goods_id=23018
Amazon.co.jpのページはこちら:いのちあふれる海へ (福音館の科学シリーズ)

絵本の紹介

邦題は「いのちあふれる海へ」ですが、原題は「Life in the Ocean」。これには「海の中で過ごした人生」と「海中の生命」の両方の意味に取れる気がします。

そしてシルビア・アールの人生はまさに「海の中で過ごした人生」です。なんと7000時間以上も海中で過ごし、クジラや様々な魚など多様ないのちと触れ合ってきたのですから。

絵本はシルビアの子供時代から始まります。アメリカ東部のニュージャージー州の農場での子ども時代。「農場のまわりをたんけんするのが大好き」だったシルビア。近くの森、池、小川、果樹園で動植物、虫などいろんないきものと触れ合います。長い時間をいきものをじっと眺めて過ごしたり、目にしたことをノートに書きとめたりと、こんな幼いころからすでに、シルビアは「生物学者」だったそうです。

海への関心がかきたてられる転機となったのは、シルビア一家のフロリダ州への引っ越しでした。新しい家のすぐそばは青緑色でおだやかなメキシコ湾。農場とお別れした辛さもすぐに吹き飛び、「シルビアは、海にすっかり心をうばわれてしまったのです」と述べられます。

誕生日にゴーグルをもらうと、それからは海三昧のシルビア。深海潜水装置に乗って改訂を調査したアメリカの博物学者ウィリアム・ビービの本に出合ってからは、自分も海のなかを探検するという夢に向かって突き進むのです。

大学ではスキューバダイビングを始め、インド洋での海洋調査にも70人体制の唯一の女性隊員として参加。様々な潜水調査を行うシルビアですが、なんと日本の「しんかい6500」にも乗ったエピソードも出てきて嬉しい驚きです。

参考情報:

シルビアと一緒に美しい海に潜っているかのような美しい絵が次から次に出てくるこの絵本。「海が好き」を追及していったシルビア・アールですが、日本では「海洋生物学」もいわゆる「理系」に分類され、シルビアのような女性も「リケジョ」などとひとくくりにされてしまいそうです。

好きなことをやり続ける、関心興味を追い求める。そこに「理系」も「文系」も、「男子」も「女子」もありません。すべての子どもたち、大人たちには、好きなことをやり続けてほしい。シルビア・アールの体験を通して、「好きなことがある人生は豊かな人生」と感じさせてくれる、素晴らしい絵本です。

(かながわグローバルIT研究所 森岡剛)