「絵本で楽しむ科学・技術・工学・数学(STEM)」シリーズ、第8弾は「いつも みていた」。ロンドン生まれの動物行動学者でチンパンジー研究で目覚ましい成果を上げた霊長類研究者、そして国連平和大使を務めたりエリザベス女王から大英帝国勲章も授与されたジェーン・グドールの物語です。動物が大好きで、「アフリカでサルたちと暮らしたい」と願っていた女の子が夢をかなえます。

この絵本はSTEMのうちの「科学(S)」の要素を持っています。コミカルな中に優しい味わいのある絵が、ジェーンとチンパンジーたちの温かい交流の物語を伝えます。

書籍情報:

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ジャネット・ウィンター=作
まえざわ あきえ=訳

出版社(福音館書店)のページはこちら:http://www.fukuinkan.co.jp/bookdetail.php?goods_id=22898
Amazon.co.jpのページはこちら:いつも みていた (福音館の科学シリーズ)

絵本の紹介

日本語題は「いつも みていた」ですが、原題は「The Watcher – Jane Goodall’s Life with Chimps」。これを訳すなら「観察者 - ジェーン・グドールのチンパンジーとの人生」でしょうか。日英両方の題からわかるとおり、ジェーン・グドールのチンパンジー研究の特徴は「チンパンジーの中で過ごし、彼らの行動をじっと観察する」という手法をとったことでした。これは彼女以降の霊長類研究では標準的な手法のようですが、当時は斬新で、この手法で得られた新しい成果についても冷ややかな目で見る研究者もいたようです。

さてジェーンは動物好きな女の子。5才のときに、ニワトリからどうやってたまごが出てくるのかを知りたくて、トリ小屋でじっとニワトリを観察し続けたほどです。「ドリトル先生」や「ターザン」を読んで、動物との生活に憧れるようになったジェーンは、学校を卒業すると、アフリカへ行くためのお金を貯めるために働きます。そしてついにアフリカに渡り、「動物のちかくにいられるしごと」を探したところ、幸運が訪れます。著名な人類学者ルイス・リーキー博士の研究を手伝って、チンパンジー観察をすることになるのです。

最初はなかなか姿を見せてくれないチンパンジーたち。絵をみると、山のなかから隠れてジェーンを見ているのがわかります。(うちの子はこの絵を見てとても喜んでいました。)あせるジェーンですが、辛抱強く観察を続けていると、チンパンジーのほうがだんだん彼女に慣れてきて、ついにジェーンが一緒にいても気にせずに行動するようになっていくのです。

「はげしい雨がふってきても、ジェーンはチンパンジーのそばにいました。
チンパンジーは、人間のように雨をよけようとしません。
ぬれたまましゃがんで、やむのをじっとまちます。」
(「いつもみていた」、ジャネット・ウィンター=作、まえざわあきえ=訳、福音館書店)

雨のときも、ぬれたまましゃがんでじっとしているチンパンジーたちと一緒にじっとしているジェーンなのでした。

チンパンジーたちに受け入れられたジェーンは、今まで知られていなかったチンパンジーの行動について様々な新発見をします。小枝を道具にしてアリ塚でアリ釣りをすること、ほかの動物の肉を食べること。。。

チンパンジーと暮らしていたジェーンですが、「アフリカではいたるところで木がきりたおされ、チンパンジーのすむところがなくなっている」のを知ります。ジェーンは森を出て、世界を旅してチンパンジーの保護を訴える活動を始めるのです。チンパンジーを守るため、ジェーンは逆にチンパンジーと離れて世界中を旅することを選んだのでした。

科学(Science)の基本は観察です。どんな理論も、観察結果と合わなければ意味がないのです。観察というと、無味乾燥でつまらないような印象があるかもしれませんが、そんなことはありません。対象が面白いから、対象のことが好きだから観察するのです。ジェーン・グドールも、チンパンジーが好きだから観察を続けたのです。そして人間に近い動物であるチンパンジーの行動をよりよく理解することは、わたしたち人間が自分たちをよりよく理解する助けになっているのです。

霊長類の研究

立花隆の「サル学の現在」など、10代のころに霊長類研究に関する本を読み漁っていたわたしです。人類の進化にもとても興味があり、ジェーン・グドールやルイス・リーキーなども知っていましたので、このような子どもにも楽しめる絵本になっていることはとても嬉しく思います。

ところで、日本も、ニホンザルの研究などで大きな成果を上げている研究所があります。京都大学霊長類研究所です。こちらでの体験談なども、こういう親しみやすい物語絵本になると嬉しいなと思います。

関連情報:

(かながわグローバルIT研究所 森岡剛)