「絵本で楽しむ科学・技術・工学・数学(STEM)」シリーズ、第9回は「世界でさいしょのプログラマー エイダ・ラブレスのものがたり」。19世紀の英国に生きたラブレス伯爵夫人オーガスタ・エイダ・キングの数奇な生涯を描いた、とても美しい絵本です。この女性エイダは、世界で最初にコンピュータプログラムを出版した人物。

「ちょっと待って!」と思った読者もおられるでしょうか。そう、エイダが生きた時代は、電気もまだ実用化されていない時代。そんな時代にコンピュータがあったのか?と思うかもしれませんが、あったのです!蒸気機関が動く巨大なコンピュータの構想が。

この絵本はSTEMのうちの「技術(T)」と「数学(M)」の要素を持っています。奇想天外の物語ですが、全て実話。コンピュータって何だろう?と思ったことのある方には特におすすめです!

書籍情報:

Amazon.co.jpから配信されている表紙画像です。クリックすると本の紹介ページにとびます。

フィオナ・ロビンソン=作
せな あいこ=訳

出版社(評論社)のページはこちら:https://www.hyoronsha.co.jp/whatsnew/detail.php?detailID=1305
Amazon.co.jpのページはこちら:世界でさいしょのプログラマー―エイダ・ラブレスのものがたり― (児童図書館・絵本の部屋)

絵本の紹介

tラブレス伯爵夫人オーガスタ・エイダ・ラブレス(1815-1852)うーん、わたしはこの絵本が好きすぎて、うまく紹介記事を書く自身がないです。。。が、やってみます!

物語はエイダが生まれるところから始まります。お父さんはあの有名な詩人バイロン卿、お母さんは数学好きな女性で、夫バイロン卿からは「平行四辺形の姫君」と呼ばれていたそうです。

しかし情熱あふれる詩人バイロンのはちゃめちゃな生活についていけず、お母さんはエイダが生まれた1か月後に家を出ます。もちろん、エイダを連れて。エイダはそのまま、お父さんに二度と会うことはありませんでした。

「この子は絶対にまともに育てる!父親みたいに感情に任せて行動するなんてことは絶対にないように!」とお母さんは思ったことでしょう。お父さんの肖像画にはカバーをかけ、そして詩には近づかせない。そのかわりに、詩と対極にある(と世間では思われれている)数学をみっちり仕込むことにしたのでした。

エイダの子ども時代はまさに暗黒。朝から晩まで毎日毎日勉強漬け。もし進みが遅れようものなら、クローゼットに閉じ込められるという徹底ぶりでした。

そんなお母さんの教育方針にもかかわらず、エイダの豊かな想像力が花開いていく様子が感動的です。時はまさに蒸気による産業革新の時代、エイダは貴族の娘としてあちこちの工場を見学してまわるうちに、機械にすっかり魅せられてしまいます。そして自分も、「空を飛ぶ機械の馬」を作ろうと、独自の学問「飛行学」を創り出すのです!

飛行学の夢は、エイダを3年も苦しめたはしかのせいで消えてしまいますが、成長したエイダはロンドンの社交界にデビューし、当時の有名な科学者、発明家、芸術家とも知り合います。そして、数学者で発明家のチャールズ・バベッジと(Charles Babbage)の出会いが、その後のエイダの人生に大きな影響を与えるのです。

バベッジはエイダよりずっと年上なので、結婚相手の候補でも何でもありませんが、エイダとバベッジはお互いのよき理解者となります。ケンブリッジ大学出身の数学者であるバベッジはこのころには発明家としても有名でしたが、そのころ彼が取り組んでいたのは「階差機関(Difference Engine)」という巨大な機械式計算機。航海に不可欠な各種の数表を正確に作成する目的で発明されたものですが、まだ10代後半だったエイダはその重要性を理解し、バベッジのよき議論相手となるのでした。

そしてバベッジが次に考案したのが「解析機関(Analytical Engine)」。こちらは、蒸気機関を動力とし、プログラム実行が可能な機械式コンピュータでした。パンチカードやプリンタも備えており、こんなものが19世紀に設計されていたと知った時はわたしも驚いたものです。

エイダは解析機関の解説記事を執筆することになります。そこでエイダは、「ベルヌーイ数」という複雑な計算を要する数列を出力する解析機関プログラムの実行ログを表形式で記述します。これが、コンピュータプログラムの設計が世界で初めて出版された瞬間でした。

エイダはプログラムそのものは記述していません。執筆時点では解析機関は完成しておらず、プログラムの書式などもまだ存在していなかったからです。

残念ながら解析機関が完成することはなく、エイダのプログラムも実際に実行されることはありませんでした。また、20世紀におけるコンピュータ技術も、バベッジとエイダの成果に関係なく発展してしまいます。

しかし、蒸気機関の時代に、コンピュータの可能性を見たエイダの想像力は素晴らしい。バベッジですら、解析機関は計算のためとしか思っていなかったところ、エイダは「プログラムによって絵や音楽や言葉が紡ぎ出される時代がくる」と予言したのです。そしてそれは、エイダの誕生から150年あまり過ぎた20世紀後半において、ついに現実となったのでした。

 

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ところで、この絵本は物語も大変面白いのですが絵のほうも素晴らしいです。実はこれ、ただの絵ではありません。絵をレゴに貼り付けて少し浮かせて、それを写真に撮っているのです。だから、人物やものに影ができ、立体的な表現になっているのですね。著者のフィオナ・ロビンソン氏は日本好きで、この本にも日本の伝統的顔料を使用しているのだそうです。

現代社会を支えるコンピュータは全て、半導体による電子式コンピュータですが、それがコンピュータの本質ではありません。コンピュータとは「情報を作り、情報で動く」情報機械。歯車式のものもあれば電子式もあり、最近では素粒子力学を駆使した量子コンピュータの実現も見えてきました。

この「世界でさいしょのプログラマー」は、コンピュータとは何か、人はなぜコンピュータに魅せられてきたのかを楽しく考えさせてくれる良書としておすすめしておきます。

(かながわグローバルIT研究所 森岡剛)