プログラミング教育がフィーバーしています。「プログラムを作ってロボットを動かしましょう」という内容のレッスンを多く見かけますが、それはプログラマー育成やコンピューターサイエンス教育の入り口としては問題があるという論考があります。
今回取り上げるのはこちらの記事です:
- 「Charting Career Paths Trumps Focusing On Skills In Computer Science」、Forbes、2019年1月14日
プログラミング教育は今や世界的なトレンドとなっており、米国においても小学校から高校レベルでのプログラミング教育導入が大きな動きとなっています。
しかしプログラミングは手段であって目的にはなりにくい。教えるためには、「プログラミングで〇〇をしてみましょう」の「〇〇」が必要です。しかも生徒が関心を持ちそうなテーマでないと動機付けにもなりません。
そこで頻繁に使われるのがロボット。「プログラミングでロボットを動かしてみましょう」となるわけで、これは米国でも日本でも全く同じです。
プログラミング教育では日本よりも歴史のある米国。しかし、あまり成果は挙がっていないようです。いくらプログラミング教育に力を入れても、コンピューターサイエンスに進む層の拡大にはつながっていないのです。
米国では、コンピューターサイエンスは白人男性と東アジア系男性で占められています。女性やほかの層にも広げようと様々な施策が打たれていますが、あまり効果が挙がっていません。
上掲した記事では、そもそもロボットを使ってプログラミングを教えること自体が問題なのではないかと示唆しています。3,612人の生徒を対象とする調査結果に基づいています。
その調査を通してわかったことは、
「ロボットプログラミングを幾らやっても、将来それを活用する自分をイメージできない。だからプログラミングの道に進もうという動機にはならず、むしろプログラミングを敬遠するように作用している」
という衝撃的な結果です。
考えてみれば、わかる話です。プログラミング授業でロボットを幾ら動かせたとしても、職業としてロボットプログラミングしている大人はほとんどいません。大多数の大人たちは、ロボットプログラミングなんかしないで生計を立てています。ロボットプログラミングが不要というわけではなく、ロボットプログラミング専門家というのは多くは必要ないというのが現状なのです。
子どもにはそれがわかります。だから「ロボットプログラミングはだいたいわかったけど、将来の自分には必要ない」と結論づけてしまうわけです。
どうしたらいいのか
現代の社会はコンピューターとソフトウェアに大きく依存しています。それはつまり、誰かが作ったプログラムに依存しているということです。
これから社会に出ていく子どもたちにとって、プログラムで動くコンピューターの仕組みを知っておくことは重要です。
ロボットプログラミングそのものは重要ではなく、コンピューターとプログラムの仕組みを知ること、それが社会においてどのように役立つのかが重要なのです。
いろんな職業において、各人がロボットやAIに指示を出したり、EXCELマクロのような様々な形式でちょっとしたプログラムを書くことが出てきます。科学研究に従事する人はデータ処理プログラムを自分で書くスキルが必要ですし、新しいサービスの企画にはそれを実現するコンピューターシステムをイメージできることが必須です。
ロボットは単なる題材であって本質ではありません。子どもたちは簡単にそれを見透かしてしまいます。
プログラミングとコンピューターの知識がどのように役立つのか、そこをしっかり伝えたうえでないとロボットプログラミング教育はまったくの逆効果となる危険性を持っているのです。
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(かながわグローバルIT研究所 森岡剛)
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